マンチェスターで地獄の家探し~その2~

その1から続く


Day 4


朝、Timが電話をくれる。昨日の部屋は他の人も申し込んだらしいが、一応わたしのアプリケーションを待ってくれているらしい。


Timいい奴。美的感覚は変だが。


友人のYさんにSOS。手付金を代わりに払ってくれるようにお願いする。快く引き受けてくれて感謝。


Castlefield、月1,200ポンド(約22万円)、1ベッドルーム


昨夜連絡のあった、マンチェスター都心の近くにある新しめの賃貸マンションを見に行く。


到着するとなんと、グループ内見らしくライバルがいる!若いイギリス男。


相手には気の毒だが、こっちも家なしになる瀬戸際である。部屋を取られないためにマンションのスタッフに必死に愛想と媚を振りまく。


部屋は…。


はじめてまともな部屋を見た!かなり広いし新しい!50平米くらいはあるのでは?すごい!


ちゃんとした部屋!

英男に負けまいと、内見終了するやいなや「はい、申し込みます!」と、すぐさま立候補。しかし、英男が見たかったのは2ベッドルームの部屋で1ベッドルームはどうでもいいらしい。


対応してくれたスタッフも親切だし、手付金もカードで払える。いや〜良かった。天気も良いし最高の気分である。


しかし、その日の夜、不動産審査の応募リンクが送られてきて気分は一転。


なにやらLettingshubとかいう、AIを使った信用情報チェックのサービスを使うらしい。


収入の勤務先への問い合わせ、銀行口座のチェック、クレジットヒストリー、これまでの賃貸歴と以前の大家さんへの問い合わせをして、総合的なスコアを出すという。


わたしは、信用情報が良いとか悪いとか以前にそもそも銀行口座がない。3日前にはじめてイギリスに来たわけで、以前の大家も小家もなにもない。


あるのは大学からもらった収入証明の手紙一枚だけである。


問い合わせてみたところ、この審査の結果が芳しくない場合、家賃12ヶ月分の前払いか、イギリス人で家を所有していて家賃の42倍以上の年収がある人を法的な保証人にしろという。そんな人いなくね?


困ったことになった…。まさに天国から地獄。


※この部屋は諸事情あって後に断ることになった。そもそも、イギリスは光熱費が高く、あとCouncil Taxというのを賃貸物件の価値に応じて毎月払うそうで、この部屋だと少なく見積もっても月に28〜29万円が息をしているだけで出て行く計算になる。


破産するかもしれない。うまくいかなくてむしろ良かった。


ちなみに、このマンションは部屋についている大きな窓がほとんどあかないらしく(イギリスの家はエアコンがない様子)、「世界一暑い部屋!」とGoogleレビューに書いてあった。


Day 7


週末はみんな休んでいるので何も動きがなく2日が過ぎた。あと一週間でホームレスになる。いよいよ追い込まれてきた。


週末はノンビリした

そもそも、どれくらいの家が安いのか高いのかよくわからないことが問題である。給料の額から逆算した、自分なりの希望額で借りられる家はマンチェスターには存在しないようだ。


大学でわたしと同じ職位の人たち数人の話によると、どうもみんな800-1,000ポンドくらいの家に住んでいるようなので、それを目安とすることにする。


Chorlton、月875ポンド(約16万円)、1ベッドルーム


Chorltonという、オーガニックスーパーなどが多いヒップな感じのエリアの、しかもど真ん中に875ポンドという破格の1ベッドルームがでている。


朝起きて留守電を残すと、すぐに電話がきた。


Openrentという、仲介業者を介さず、大家が直接家の広告を載せることができるサイトに出ている家なのだが、「大家さんですか?」と聞くと、「いいえ」という。


あなたは誰?


とりあえず家を見に行く。


かなり古い家で狭いが、中は今まで見た家で一番綺麗にされている。案内してくれたイラン系の夫婦が手入れをしているらしい。


家の前に小庭(?)がついていて、そこが同じ建物の住人のゴミ置き場になっていることと、玄関=キッチンという謎すぎる間取りが気になるが、立地と値段を考えれば多少のことには目をつむるしかない。


玄関=キッチンという強引な間取り

小庭=ゴミ置き場

それよりも問題なのは、この物件が全体的に謎めいていることだ。


夫婦から聞いた話を総合するに


(a) オーナーはロンドンに住んでいて、この夫婦が物件の管理を一任されている。

(b) オーナーは不思議な人で、外部の信用審査サービスを使わず本人の直感で入居者を決める。

(c) オーナーが、24時間前予告で家を綺麗に使っているかチェックしにくることがある。 


オーナーも謎なら、この夫婦も謎だ。


プロの不動産仲介業を自称するのだが、「何という会社なんですか?」と何度か聞いてみても、「※△%□※△%□※△%」と、そこだけめちゃくちゃ早口になるので、なんて言ってるのかよくわからない。おそらく、会社なんてないのだろう。


全体的に怪しさmaxだが、銀行口座もないという今の状況を考えると、一般的な信用審査サービスを使わないことを含めて非常に魅力的である。悩む。


自称仲介業者に、オーナーが本当に物件を所有しているという証拠を送って欲しいと頼む。すると、逆にわたしが詐欺を働こうとしているかもしれないのだから、所有権証明(Title deeds)は絶対に見せられないとのこと。


なんで?


謎を解消するはずが、さらに謎が深まった。


毎日、自転車で物件めぐり(仕事しろ)

しかし、なにより値段が良い。諦めきれない。


犯罪学の専門家でもある前述の友人、Yさんに相談。そんな大がかりな詐欺は考えにくいとのこと。いわれてみれば、それもそうである。


とはいえ、怪しいこともまた事実。そこで、イギリス政府のウェブサイトに3ポンド払って自分でこの物件の登記証明を入手することにした。


家探しをしているはずが、いつの間にかシャーロック・ホームズである。授業の準備をしないといけないのに…。


登記証明からいくつかのことがわかった。


(i) この物件は1800年代からここにある建物で、おそらく合法的に貸しても良い部屋

(ii)オーナーはおそらくイラン系夫婦の息子夫妻で、本当にロンドン郊外に住んでいる模様

(iii) オーナーはとある会社の役員のようだが、この会社は、役員6人のうち5人がロンドン郊外の住宅地のまったく同じ通りの隣り合う家1-5に住んでいるという謎すぎる組織(秘密結社か?)


単に、家族ぐるみで小遣い稼ぎをしているだけなのに、なぜこの夫婦が頑なにプロの不動産仲介業であるかのように振る舞うのかは謎のままだ。


まぁ、いいでしょう。管理人夫妻の家の住所もわかったし。


上記の高級賃貸マンションは審査が通らなさそうなので、とりあえずここにも申し込むことにする。


しかし、この日のわれわれにはまだ本命物件の内見があるのである。


期待に胸が高鳴る。


~その3に続く~


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