2019年に読んだ本ベスト10
2019年は、前半は博論で常に半死状態、後半はボストンの寒さで常に半死状態の一年だった。
誰にも求められていないけれど、今年も趣味で読んだ本ベスト10。例によって、今年出た本とは限らず、わたしが今年たまたま読んだ本の中で、本来なら、友達に「これおもしろかったよ!」と言いたかったけれど、友達があまりいないので(涙)、オススメされることのなかった本たちのリスト。
韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩
韓国在住のフリージャーナリストの方が、韓国社会の厳しい競争について書いた本。非常に平易に書かれていて、おもしろいというと語弊があるが、ものすごくおもしろい。例えば、エリート塾の入塾試験をパスするための塾に通う子どもたちの話とか、めちゃくちゃである。
「品の悪い中年男性」を蔑む言葉「ゲジョシ(犬=ゲ+おじさん=アジョシ)」など、社会問題を形容する言葉を量産する韓国の人のクリエィテイビティにも脱帽。
翻って、日本は一見幸せそうに見えるが、テレビを見ていると大事な社会問題はほとんど報道されていなくて、忘年会に行かない若者とか、ラグビーがどうのこうのというポンコツ報道ばかり。社会問題への関心が高い韓国よりも悲惨な状況なのではないか。
こんな生活をしてみたいと思わされる憧れ本。
社会不適合者を自認する僧侶の著者が、車以外全て捨て、車で寝泊まりしながらサーフィンしたり、たまに「派遣僧侶」として仕事をしたりと、行き当たりばったりの生活に自由を見つけ、社会不適合者であることを肯定する。
見出しも「女性の身体に般若心経を書いてクビに」、「寺が人で賑わいすぎてクビに」、「養子に行った寺でクビに」などハチャメチャ。
僧侶という立場にありながら、「結婚するもニュージーランドへ逃亡」の章では、彼女から押し切られ「家賃を折半できるのも魅力だった」と結婚するも、夫とはこうあるべきという像になじめず、「妻はとにかく鬱陶しかった」と、いきなりニュージーランドに逃亡してしまったり、正直に書けちゃういさぎよさが非常にすがすがしい。
ものすごく重い本だが、ギッシリと内容が詰まった、これぞ力作。2018〜19年のJR 東日本労組3万5千人脱退に至るまで、JR労組「崩壊」の内部で起こっていたことを詳細かつ物語の迫力を持って書かれていて、一気読みしてしまった。
JR労組はたしかに、「会社」に負けたが、それ以上に一般社員の利益を代表せず、社員たちから見捨てられたことが「崩壊」につながった、と著者は分析する。
ユニクロ潜入ルポもおもしろかった著者の、二度目のamazon潜入取材。ただ、潜入ルポの話は限定的で(それはそれで、小田原工場で何人も死人が出ている話など、めちゃくちゃなのだが)、現場の流通から、クラウドサービス、この巨大企業がどうやって税金を回避しているかまで、amazon帝国のいろいろなレベルを通してその全体像が描かれていて、非常におもしろい。
特に、amazonにフェイクレビューを書いてお金を儲けている人たちヘの取材を通して書かれている7章「フェイクレビューは止まらない」には、こんな仕事があるのか!と、驚いた。
2018年にガンで亡くなられてしまったラッパー、ECDさんの最後の本を遅ればせながら読んだ。自身の幼少期から、家族に囲まれながらのガンで闘病中の執筆時までを振り返りながら、家族と個人の関係について考察していて、東アジアにおける家族の重さなど、いろいろと考えさせられた。
これもすごい本。
作家の著者に実際に起こったストーカー被害の体験記。普通に見えた男性が完全に常軌を逸したストーカーになっていく恐怖と、まわりからも理解されないという二重の恐怖がありありと書かれている。
これを書くのは本当につらかっただろうな、と思う。著者の対応に非があるとか、感情的だのと、この本にわざわざAmazonで批判的レビューを書いている人たちはなにを考えているのだろうか。
満州建国大学の本や、スーダンでの自衛隊日報隠蔽の本もおもしろかった著者によるルポ。
アフリカでの、印鑑などに使われる象牙のための暴力的かつ大量のゾウ狩猟がアフリカ象を絶滅の危機に追いやっているという。資本主義の恐ろしさを感じる。
本の終盤にて、中国政府はその巨大な国内像牙市場を閉鎖する決定をするが、それでもかたくなに国内市場を取り締まらない日本政府のあくどさは、もっと広く知られるべきである。
英語になってしまうのだが、たぶん今年読んだ全ての本の中で一番すごい本だった。
大企業によるやりたい放題の天然ガス掘削によって水、空気、家、動物たち、家族、人間関係を破壊されてしまったペンシルバニア州の田舎のシングルマザーが大企業相手に奮闘するというお話。
環境問題と不平等の交差点は間違いなく、今一番重要な社会問題の一つだろう。早く日本語版もでるといいのだが。
正直、小説は最近全然読まないので無知で恥ずかしいのだが、すごくおもしろかった。
キム・ジヨンの半生を通して語られる性差別の話。ものすごく月並みな感想だが、構造的な差別は別としても、毎日の小さな暴力って、自分でも無意識にあれこれやっちゃってるんだろうな、と背筋が寒くなる。
文藝の特集本に入っていた同じ著者の『家出』や、別の韓国小説集のタイトルにもなっている『ヒョンナムオッパへ』も、すごくおもしろかった。この本と文藝の特集のヒットのおかげか、Kindleで変える韓国の小説の日本語訳が増えたので来年はもっと読みたい。
『コンビニ人間』がおもしろかったので読んだのだが、この本はさらに印象的だった。
人工授精が一般化して、夫婦間の性行為がタブー化した近未来という設定なのだが、ある種の「正常」が常に疑われ続ける内容で、一気に読んでしまう。
毎年12月24日に選ばれた住民が人工授精を受ける「実験都市」が、なぜか千葉なのもおもしろい。
みなさん良いお年を!
誰にも求められていないけれど、今年も趣味で読んだ本ベスト10。例によって、今年出た本とは限らず、わたしが今年たまたま読んだ本の中で、本来なら、友達に「これおもしろかったよ!」と言いたかったけれど、友達があまりいないので(涙)、オススメされることのなかった本たちのリスト。
韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩
韓国在住のフリージャーナリストの方が、韓国社会の厳しい競争について書いた本。非常に平易に書かれていて、おもしろいというと語弊があるが、ものすごくおもしろい。例えば、エリート塾の入塾試験をパスするための塾に通う子どもたちの話とか、めちゃくちゃである。
「品の悪い中年男性」を蔑む言葉「ゲジョシ(犬=ゲ+おじさん=アジョシ)」など、社会問題を形容する言葉を量産する韓国の人のクリエィテイビティにも脱帽。
翻って、日本は一見幸せそうに見えるが、テレビを見ていると大事な社会問題はほとんど報道されていなくて、忘年会に行かない若者とか、ラグビーがどうのこうのというポンコツ報道ばかり。社会問題への関心が高い韓国よりも悲惨な状況なのではないか。
こんな生活をしてみたいと思わされる憧れ本。
社会不適合者を自認する僧侶の著者が、車以外全て捨て、車で寝泊まりしながらサーフィンしたり、たまに「派遣僧侶」として仕事をしたりと、行き当たりばったりの生活に自由を見つけ、社会不適合者であることを肯定する。
見出しも「女性の身体に般若心経を書いてクビに」、「寺が人で賑わいすぎてクビに」、「養子に行った寺でクビに」などハチャメチャ。
僧侶という立場にありながら、「結婚するもニュージーランドへ逃亡」の章では、彼女から押し切られ「家賃を折半できるのも魅力だった」と結婚するも、夫とはこうあるべきという像になじめず、「妻はとにかく鬱陶しかった」と、いきなりニュージーランドに逃亡してしまったり、正直に書けちゃういさぎよさが非常にすがすがしい。
トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉
ものすごく重い本だが、ギッシリと内容が詰まった、これぞ力作。2018〜19年のJR 東日本労組3万5千人脱退に至るまで、JR労組「崩壊」の内部で起こっていたことを詳細かつ物語の迫力を持って書かれていて、一気読みしてしまった。
JR労組はたしかに、「会社」に負けたが、それ以上に一般社員の利益を代表せず、社員たちから見捨てられたことが「崩壊」につながった、と著者は分析する。
潜入ルポ amazon帝国
ユニクロ潜入ルポもおもしろかった著者の、二度目のamazon潜入取材。ただ、潜入ルポの話は限定的で(それはそれで、小田原工場で何人も死人が出ている話など、めちゃくちゃなのだが)、現場の流通から、クラウドサービス、この巨大企業がどうやって税金を回避しているかまで、amazon帝国のいろいろなレベルを通してその全体像が描かれていて、非常におもしろい。
特に、amazonにフェイクレビューを書いてお金を儲けている人たちヘの取材を通して書かれている7章「フェイクレビューは止まらない」には、こんな仕事があるのか!と、驚いた。
2018年にガンで亡くなられてしまったラッパー、ECDさんの最後の本を遅ればせながら読んだ。自身の幼少期から、家族に囲まれながらのガンで闘病中の執筆時までを振り返りながら、家族と個人の関係について考察していて、東アジアにおける家族の重さなど、いろいろと考えさせられた。
これもすごい本。
作家の著者に実際に起こったストーカー被害の体験記。普通に見えた男性が完全に常軌を逸したストーカーになっていく恐怖と、まわりからも理解されないという二重の恐怖がありありと書かれている。
これを書くのは本当につらかっただろうな、と思う。著者の対応に非があるとか、感情的だのと、この本にわざわざAmazonで批判的レビューを書いている人たちはなにを考えているのだろうか。
満州建国大学の本や、スーダンでの自衛隊日報隠蔽の本もおもしろかった著者によるルポ。
アフリカでの、印鑑などに使われる象牙のための暴力的かつ大量のゾウ狩猟がアフリカ象を絶滅の危機に追いやっているという。資本主義の恐ろしさを感じる。
本の終盤にて、中国政府はその巨大な国内像牙市場を閉鎖する決定をするが、それでもかたくなに国内市場を取り締まらない日本政府のあくどさは、もっと広く知られるべきである。
英語になってしまうのだが、たぶん今年読んだ全ての本の中で一番すごい本だった。
大企業によるやりたい放題の天然ガス掘削によって水、空気、家、動物たち、家族、人間関係を破壊されてしまったペンシルバニア州の田舎のシングルマザーが大企業相手に奮闘するというお話。
環境問題と不平等の交差点は間違いなく、今一番重要な社会問題の一つだろう。早く日本語版もでるといいのだが。
82年生まれ、キム・ジヨン
正直、小説は最近全然読まないので無知で恥ずかしいのだが、すごくおもしろかった。
キム・ジヨンの半生を通して語られる性差別の話。ものすごく月並みな感想だが、構造的な差別は別としても、毎日の小さな暴力って、自分でも無意識にあれこれやっちゃってるんだろうな、と背筋が寒くなる。
文藝の特集本に入っていた同じ著者の『家出』や、別の韓国小説集のタイトルにもなっている『ヒョンナムオッパへ』も、すごくおもしろかった。この本と文藝の特集のヒットのおかげか、Kindleで変える韓国の小説の日本語訳が増えたので来年はもっと読みたい。
消滅世界
『コンビニ人間』がおもしろかったので読んだのだが、この本はさらに印象的だった。
人工授精が一般化して、夫婦間の性行為がタブー化した近未来という設定なのだが、ある種の「正常」が常に疑われ続ける内容で、一気に読んでしまう。
毎年12月24日に選ばれた住民が人工授精を受ける「実験都市」が、なぜか千葉なのもおもしろい。
みなさん良いお年を!
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