2017年に読んだ本ベスト10(ノンフィクション)


今年もまた終わる。

誰も求めていないという雰囲気を察しつつも、そんなことは気にせず、今年も読んだ趣味本ランキングを公開する。これは今年出版された本のリストではない

読んだ本がほとんどノンフィクションかエッセイだったので、今年はいさぎよくノンフィクションだけにした。

問題は、紙で読んだ本が手元にないので、なにを読んだか思い出せないということだ。去年の年末も、「今年は読んだ本をリスト化する!」と言っていた気がするが、そのリストは3冊目から更新が途絶えていた。

おかげで、Kindleで買える本のリストになったので、海外在住のひとでも読めるラインナップになったと自画自賛。

ベスト10

勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇
永遠のPL学園: 〇年目のゲームセット
自作の小屋で暮らそう──Bライフの愉しみ 
ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち 
かくて行動経済学は生まれり
ポリアモリー 複数の愛を生きる
救急精神病棟
洞窟ばか
- 1985年のクラッシュ・ギャルズ
誘蛾灯 二つの連続不審死事件

その説明



野球に関心がない。他人が、木や鉄の棒を振り回しているところを見て、何がおもしろいのかわからない。「他の人より棒を振り回すのがうまい」という、あまり意味のない能力のために、年に何億円も給料をもらう人がいるのもよくわからない。

しかし、夏に日本に帰っていたときに甲子園にはまった。たしかに、高校生が木の棒を振り回したり、ゴムの塊を放り投げているだけなのだが、そこにいたるまでのドラマ性がおもしろい(いまさらなに言ってる)。そして、甲子園本をいっぱい読んでしまった。

ハンカチ王子VS.マー君で有名な、甲子園決勝再試合にいたるまでの駒大苫小牧、香田誉士史監督の苦悩の話である。3連覇という栄誉がかかったくだんの試合に負けて「正直ほっとした」という監督のコメントに、その苦悩の深さがあらわれている。



これも夏に訪れたあさひな甲子園ブームのため。

清原と桑田のKKコンビで知られた超名門、PL学園野球部は2016年の大阪大会初戦敗退をもって60年の歴史に幕を閉じた。かつての常勝軍団が、公式戦で一勝もできない弱小野球部になり、廃部となる。その背景を詳しく描いていておもしろい。

仕事とはいえ、野球の変態でなければ、こんなに細かく、他の人にとってはどうでもいいことを調べるのは無理だろう。

それにしても、水を飲むことすら禁止で、清原にいたってはトイレにたまっている汚水を飲んでのどを潤していた、という全盛期の非人間的統治システムは恐ろしすぎる。



一生懸命働けば、それなりにお金がもらえて、それなりにお金があればそれなりに幸せになれるという「社会契約」の物語が死んでしまったわれわれの時代は、「なんのために仕事するのか?」とか「なんのために生きているのか?」とか、大きな問いであふれている。

そんなとき、「Bライフ」——「安い土地でも買って適当に小屋でも建てて住んじゃおう」という著者の提案は魅力的。著者は実際に、誰もほしがらない土地に自作の小屋を建てて、そこで半自給自足生活をしている。最低限死なない環境を確保してモノや労働に支配されない生活を画策しようということである

著者はコーラが好きらしいのだが、「必ず毎日コーラを飲めるように自分自身を制御するとなると、コーラに支配されてしまう。」だから、「本当にコーラを楽しむためには、毎月10,000円で食生活を築いてコーラと対等な立場に立つことが先だ」という。爆笑だが納得。

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち ジョン・ロンソン(2017) 


ある日、同姓同名、自分の写真で勝手にツイッターアカウントを開設されたイギリス人ジャーナリスト。「帰宅。ガラナとイガイをバップにはさんだサンドイッチを作りたいなど、自分がつぶやかないようなことばかりを第三者につぶやかれてしまうという話から始まる本書のテーマはネットリンチをテーマにした現代社会における恥と羞恥心の考察だ(日本語版はタイトルが悪すぎ)。

最近たまたま読んでた社会学者アンソニー・ギデンズによると、後期近代社会の特徴の一つは、「罪」から「恥」による抑圧への転換にあるという(と、大きな話を雑学化してしまうのはやめよう)。なんか重要っぽいバイブスを感じる。

「検索結果の1ページ目で世間の印象は決まる」という小節がある。53パーセントのユーザーは検索結果の上位ふたつだけ、89パーセントのユーザーは2ページ目までしか見ないという。Googleで自分の名前を検索すると、同名のアニメのキャラが延々とでてくる。アニメが恥ずかしいというつもりはないが、私に関係なさ過ぎる。いや、やっぱりちょっと恥ずかしい。

かくて行動経済学は生まれり マイケル・ルイス(2017)


マイケル・ルイスはすごい。どの本もおもしろい。だからこの本も面白い。終。

リチャード・セイラーが今年のノーベル経済学賞を受賞した。リチャード・セイラーは、行動経済学という学問を始めた人の一人だが、その礎となる研究をしたのが、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーという二人のイスラエル人心理学者。本書は、この二人の友情と嫉妬がいかに世界を変えるような発見につながったか、という内容だ。

二人は、経済学や心理学をはじめとして、それまでの社会科学のベースとなっていた「人間は合理的に判断をしている」という前提が正しくないことに気づいた。そして、それに変わる、人間の行動を説明するモデルを提唱した。まちがった前提に基づいた理論すべてをひっくり返されてしまう、革命的発見だ。

この本を読むと、「自分の研究はなんてしょぼいんだ…」と、やる気が出なくなるので大学院生諸君は要注意。僕も一瞬、「こういう才能がいるとすると、やっぱり自分には研究は無理だな」と思ったが、次の瞬間「あ、他にできる仕事もないな」と我に返った。

ポリアモリー 複数の愛を生きる 深海菊絵(2017)


友達が一人しかいないという人はあまりいないはず。なぜ複数人の友達と遊んでもいいのに、一人以上の人と交際すると問題になるのか。

この本は、アメリカで複数人と真剣に交際するという「ポリアモリー」を真剣に実践している人たちのエスノグラフィーである。著者は一橋大学の社会人類学博士課程の方。ポリアモリーの思想的背景や、実際に生じる嫉妬の問題などを書いていて非常に面白い。日本では、岡本太郎の父と母、一平とかの子がかの子の恋人で医者の亀三を同居させていたらしい

しかし、後半は、タントラという自己啓発系の実践とのつながりが指摘されていて、そういうのは僕が思ってたのとはちょっと違うな…と若干引いてしまった。似た系統で人はなぜ不倫をするのかも結構面白かった

救急精神病棟 野村進(2010)


野村進さんはすごい。どの本もおもしろい。だからこの本も面白い。終。

精神病棟のルポルタージュというのは、とくだん新しいテーマではないのだが、本書で野村さんは「救急」精神病棟という比較的新しい形態の病院に常駐して隅々まで取材している。それだけでなく、精神治療の大きな流れの変化なども描かれていて、完成度が高すぎる。

日本に博士論文の調査にきて、精神に異常をきたしてしまったアメリカ人大学院生の話など、自分も気をつけないと…と思わされる。

取材途中、野村さん自身が不眠症になってしまうのだが、よほどメンタルが強い人でなければこのテーマは書けないだろう。僕には絶対にできない。

誘蛾灯 二つの連続不審死事件 青木理(2016)


青木理さんはすごい。どの本も…(以下略)

鳥取のさびれたスナックにいた、あまり冴えない見た目の女性のまわりで、数々の男性が不審な死に方をした。その事件を追いかけた本である。

刑事や新聞記者など、社会的ステータスがあり、家族もいて、仕事柄一応怪しいことはわかりそうな中年男性たちが、上述の女性、上田美由紀さんにハマり、多額のお金を貢がされて殺される、というのがなんとも不気味だ。平凡だが幸せな家庭が崩壊していく話は定番ではあるが、もしかしたら自分も…という気味の悪さがあってストーリー性が強い。

鳥取のスナックでの「青ちゃ〜ん」といって、スリスリいろんなところを触ってくるママとか、ゴミ屋敷に住む上田さんのお母さんのカバンからゴキブリが出てきた話とか、描写が本当にうまい。読んでいると、鳥取の寒々しい風景が浮かぶ。

洞窟ばか 吉田勝次(2017)


著者の吉田さんはタイトル通りのバカみたいだ。

吉田さんは、有限会社勝建という建築会社を自分で興した社長なのだが、仕事だけの人生に疑問を感じ、なにか熱くなれるもの、ということで試してみた洞窟探検にハマる。

そこからがめちゃくちゃだ。プロローグにある、中国の深さ300m超の洞窟で落石事故に遭い、骨折した状態で宙ぶらりんのまま30時間かけて上まで這い上がった(!)というエピソードは強烈だ。自分では体験できない話だけにおもしろい。

一人称は常にオレだし、文体からキャラが伝わってきてイイ感じ。今年は似た系統で外道クライマーもおもしろかった



日本中の女子ファンを当時熱狂させたという、クラッシュ・ギャルズ(長与千種とライオネス飛鳥のタッグ)の物語と、そのクラッシュ・ギャルズに熱中し、最後にはプロレスのライターになってしまう「普通の」女性の物語がパラレル調ですすむ。僕の博論も面白く書きたいので、こういう構成はありだなーと思った。

僕はプロレスにまったく興味がないし、クラッシュ・ギャルズというタッグの存在すら知らなかった。でも、グイグイ読んでしまった。運動神経抜群だが、「客につたわるものがない」という飛鳥と、弱いが感情を表現してショーをつくる能力に長けた長与、という二人の苦悩と葛藤が、物語をつくっている。

それでも、「ある女性」の話がなくて、二人だけの話が延々と続いたらこんなに面白くは読めなかったと思う。書き方うまめ。それにしてもフォークを突き刺したり、本当に骨を折ったり、暴力的すぎてところどころキツい。なんでそんなことをするのか…。

選外だがオススメしたい…

トップ10といいながら、10 個以上出しては意味がない。しかし、毎年トップ15くらいまでは簡単に決まるのだが、それを10に絞るのが難しい。とくに以下の3冊は、重要なテーマを扱っていておもしろいので、ここで宣伝。

フィリピンパブ嬢の社会学 中島弘像(2017)
ユニクロ潜入一年 増田増生(2017)


来年もがんばろー!

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