2021年に読んだノンフィクション本ベスト10
また1年が終わります。わたしの大学は授業も終わり、ここ数日はブースターショットの副反応で寝込んでいました。
誰も読んでいないのではないか、という疑念を無視しつつ、数年間ブログに書いていた今年読んだ本シリーズですが、2020年は気がついたら年を越していて、結局書きませんでした。反省を生かして、今年は早めに書きます。
例によってわたしがたまたま今年読んだ本であって、今年出た本ではないです。あと、ここ数年、何を読んで良いかわからなくて小説をあまり読んでいないので(読むものがなくて、なぜかアガサ・クリスティを連続読みしていたくらいのレベル…)、今年もノンフィクション本で10冊にしましたが、ごくごく限られた冊数しか読んでいなくても結構迷いますね。ちなみに、順番は適当で、上にある本のがより良いというわけではないです。
みなさんもオススメ本があればぜひ教えてください。それでは、良いお年を〜!
魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣 石井 妙子
ジョニーデップ主演の映画で話題の写真家ユージン・スミスと、妻で『MINAMATA』の共同制作者のアイリーンの話。ものすごく綿密にユージン・スミスの人生を再構成しているのだが、読めば読むほど、ユージンの写真への偏執的なこだわりと生活の退廃ぶり、尋常じゃないレベルのモラルの欠如が伝説的。
人間の土地へ 小松由佳
登山家として世界でも登るのがもっとも難しい山の一つでとされるK2にも登頂した著者が、写真家となりシリアの人々を撮影する。のだが、現地の男性と出会いのちに結婚したり、アラブの春と内戦が勃発したりとスケールがすごい。シリア社会は混沌とした模様なのだが、コーヒーに招かれたら豆を煎るところから始まったとか、著者の貴重品を盗んだ近隣住人のしたたかさとか、日常の話のほうがむしろ印象に残った。
僕のジロ・デ・イタリア 山本元喜
数年前の本なのだが、今年の夏頃、わたしの中で自転車本ブームが到来していたためご勘弁を。「普通の少年」だった著者が、3000キロを超える距離を走る世界最高峰のロードレースの一つを完走する話。著者自身がレースに参加しながら見たものを書いているので、臨場感がすごい。大会期間中、1日に数千キロカロリーも消費する選手たちは、内臓に負担がかからないように塩味だけのパスタなどを毎日大量に食べ続けるそう。大変な仕事。
誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論 松本俊彦
精神科の先生が依存症治療の経験について書いた本。著者自身の依存症的な部分(たとえば、車の改造に一時期異常に熱中していたとか)がエピソードとしてはさまれていて、患者を他者化していない感じがして良かった。実家に本を置いてきてしまったのでうろ覚えなのだが、覚醒剤を何十年も使っている人はガリガリでいかにも不健康そうというのは嘘で、むしろ三代目J Soul Brothersのような溌剌とした元気な人が多い、という話がなぜか印象に残った。
サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 小島庸平
戦前の素人高利貸しから、我々の知っている大手業者の隆盛・衰退まで、消費者金融がどのように変わってきたのかについて書いた本。公的扶助が不十分な日本において、サラ金は営利企業でありながら低所得者にもお金を貸して金融的に包摂してきたというのは、なるほどと思った。「家計とジェンダー」という見方もおもしろいし、全体的に目のつけ所がすごい。
アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく イアン・アービナ
海の上は国家の干渉がおよばない文字通りの無法地帯。それゆえ、陸地以上にとんでもないレベルの搾取と人権侵害がはびこっているという。一方で、それを逆手にとって、妊娠中絶が違法の国の女性に海上で中絶をおこなっている女性医師の話など、目からうろこの話多数。違法な漁をしていた韓国の漁船の話も出てくるので、最近はスーパーの魚を見ると「これも違法魚なんじゃないか…」とついつい気になってしまう。値段が半分以下だったから英語版で読んだので、翻訳の良し悪しは不明。
ガリンペイロ 国分拓
NHKのドキュメンタリー・ディレクターの著者が、アマゾンの金鉱山で一攫千金を目指す男たち、通称「ガリンペイロ」の生活を書いた本。細かく書いてはいけないことの制約が多かったようで、客観的な記述というよりは数人のガリンペイロの主観的な描写を通じて話が展開されていくこともあり、小説のようで読み応えがすごい。
ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録 片山 夏子
このトピックに関する本は多数あるが、東京新聞の記者さんが9年間にわたって継続的に取材をしてきたということで、作業員が直面する問題がどのように変わってきたかがわかる。恥ずかしながら知らないことばかりだった。著者の分析部分と作業員への直接インタビュー部分(日誌部分というべきか?)が分けて書かれているのが良かった。
誰も読んでいないのではないか、という疑念を無視しつつ、数年間ブログに書いていた今年読んだ本シリーズですが、2020年は気がついたら年を越していて、結局書きませんでした。反省を生かして、今年は早めに書きます。
例によってわたしがたまたま今年読んだ本であって、今年出た本ではないです。あと、ここ数年、何を読んで良いかわからなくて小説をあまり読んでいないので(読むものがなくて、なぜかアガサ・クリスティを連続読みしていたくらいのレベル…)、今年もノンフィクション本で10冊にしましたが、ごくごく限られた冊数しか読んでいなくても結構迷いますね。ちなみに、順番は適当で、上にある本のがより良いというわけではないです。
写真は全然関係ないが、先週行った韓国は麗水(ヨス)の海
みなさんもオススメ本があればぜひ教えてください。それでは、良いお年を〜!
魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣 石井 妙子
ジョニーデップ主演の映画で話題の写真家ユージン・スミスと、妻で『MINAMATA』の共同制作者のアイリーンの話。ものすごく綿密にユージン・スミスの人生を再構成しているのだが、読めば読むほど、ユージンの写真への偏執的なこだわりと生活の退廃ぶり、尋常じゃないレベルのモラルの欠如が伝説的。
人間の土地へ 小松由佳
登山家として世界でも登るのがもっとも難しい山の一つでとされるK2にも登頂した著者が、写真家となりシリアの人々を撮影する。のだが、現地の男性と出会いのちに結婚したり、アラブの春と内戦が勃発したりとスケールがすごい。シリア社会は混沌とした模様なのだが、コーヒーに招かれたら豆を煎るところから始まったとか、著者の貴重品を盗んだ近隣住人のしたたかさとか、日常の話のほうがむしろ印象に残った。
僕のジロ・デ・イタリア 山本元喜
数年前の本なのだが、今年の夏頃、わたしの中で自転車本ブームが到来していたためご勘弁を。「普通の少年」だった著者が、3000キロを超える距離を走る世界最高峰のロードレースの一つを完走する話。著者自身がレースに参加しながら見たものを書いているので、臨場感がすごい。大会期間中、1日に数千キロカロリーも消費する選手たちは、内臓に負担がかからないように塩味だけのパスタなどを毎日大量に食べ続けるそう。大変な仕事。
誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論 松本俊彦
精神科の先生が依存症治療の経験について書いた本。著者自身の依存症的な部分(たとえば、車の改造に一時期異常に熱中していたとか)がエピソードとしてはさまれていて、患者を他者化していない感じがして良かった。実家に本を置いてきてしまったのでうろ覚えなのだが、覚醒剤を何十年も使っている人はガリガリでいかにも不健康そうというのは嘘で、むしろ三代目J Soul Brothersのような溌剌とした元気な人が多い、という話がなぜか印象に残った。
サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 小島庸平
戦前の素人高利貸しから、我々の知っている大手業者の隆盛・衰退まで、消費者金融がどのように変わってきたのかについて書いた本。公的扶助が不十分な日本において、サラ金は営利企業でありながら低所得者にもお金を貸して金融的に包摂してきたというのは、なるほどと思った。「家計とジェンダー」という見方もおもしろいし、全体的に目のつけ所がすごい。
アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく イアン・アービナ
海の上は国家の干渉がおよばない文字通りの無法地帯。それゆえ、陸地以上にとんでもないレベルの搾取と人権侵害がはびこっているという。一方で、それを逆手にとって、妊娠中絶が違法の国の女性に海上で中絶をおこなっている女性医師の話など、目からうろこの話多数。違法な漁をしていた韓国の漁船の話も出てくるので、最近はスーパーの魚を見ると「これも違法魚なんじゃないか…」とついつい気になってしまう。値段が半分以下だったから英語版で読んだので、翻訳の良し悪しは不明。
ガリンペイロ 国分拓
NHKのドキュメンタリー・ディレクターの著者が、アマゾンの金鉱山で一攫千金を目指す男たち、通称「ガリンペイロ」の生活を書いた本。細かく書いてはいけないことの制約が多かったようで、客観的な記述というよりは数人のガリンペイロの主観的な描写を通じて話が展開されていくこともあり、小説のようで読み応えがすごい。
ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録 片山 夏子
このトピックに関する本は多数あるが、東京新聞の記者さんが9年間にわたって継続的に取材をしてきたということで、作業員が直面する問題がどのように変わってきたかがわかる。恥ずかしながら知らないことばかりだった。著者の分析部分と作業員への直接インタビュー部分(日誌部分というべきか?)が分けて書かれているのが良かった。
チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学 小川 さやか
一昨年の本なのだが、遅ればせながら読んでみたらものすごくおもしろかった。香港の有名な「チョンキンマンション」に住み、はたらくタンザニアからの移民たちの話で、各章が人類学的なテーマにもとづいて書かれているのだが、なにより登場人物たち、とくに「チョンキンマンションのボス」こと主人公のカラマのポンコツぶり、かつしたたかな感じが最高。なぜ、わざわざICカードではなく切符で地下鉄に乗るのかを聞かれて、「オレはこれまでに20回以上は八達通(香港地下鉄のICカード)をなくしている」とのこと。共感。わたしもさっきコストコに行こうとしたらICカードが見つからなくて探すのに10分かかった。
最悪の予感 パンデミックとの戦い マイケル・ルイス
マイケル・ルイスは何を書いてもすごい。アメリカのコロナ対策の裏側を書いているのだが、あえて感染病政策について2000年代初頭(しかも女子中学生の天才的な自由研究課題というエピソード!)まで遡っている。裏ではこういうことが起こっていたのか~という感じで感嘆。大きな話を、個人のストーリーを通して語るうまさが天才的(たとえば今作だとカリフォルニア州の保健衛生官の女性など)。値段が半分以下だったから(以下略…来年は給料があがって値段を気にせず本を買えるようになるといいな…)。
一昨年の本なのだが、遅ればせながら読んでみたらものすごくおもしろかった。香港の有名な「チョンキンマンション」に住み、はたらくタンザニアからの移民たちの話で、各章が人類学的なテーマにもとづいて書かれているのだが、なにより登場人物たち、とくに「チョンキンマンションのボス」こと主人公のカラマのポンコツぶり、かつしたたかな感じが最高。なぜ、わざわざICカードではなく切符で地下鉄に乗るのかを聞かれて、「オレはこれまでに20回以上は八達通(香港地下鉄のICカード)をなくしている」とのこと。共感。わたしもさっきコストコに行こうとしたらICカードが見つからなくて探すのに10分かかった。
最悪の予感 パンデミックとの戦い マイケル・ルイス
マイケル・ルイスは何を書いてもすごい。アメリカのコロナ対策の裏側を書いているのだが、あえて感染病政策について2000年代初頭(しかも女子中学生の天才的な自由研究課題というエピソード!)まで遡っている。裏ではこういうことが起こっていたのか~という感じで感嘆。大きな話を、個人のストーリーを通して語るうまさが天才的(たとえば今作だとカリフォルニア州の保健衛生官の女性など)。値段が半分以下だったから(以下略…来年は給料があがって値段を気にせず本を買えるようになるといいな…)。
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