韓国から生存の報告・「日本社会入門の日本語教科書があれば良いのに」の巻

あけましておめでとうございます。


10月からブログを放置してしまっていた。一ヶ月に二度更新するのが目標なのだが、この分では一年に二度程度の更新となりそうである。


それもこれも、わたし自身の怠惰のせいでは決してない。昨今の緊迫した、かつ異様な社会情勢を見るにつけ、また、先週はマイナス19度を記録したソウルの過酷な寒さを鑑みるに、このようなくだらないことを書いていて良いのだろうか、という疑問がむくむくとわいてくる。


つまり、ブログを書くモチベーションが非常に低下しているのである。


しかし、たまには安否報告をしておこうかなと思った次第である。「2020年今年面白かった本」もまだ書いていないので、またそのうち書きたい。



   最近は雪が何度か降りました。漢江も凍ったそう。


一応生きてます

寒すぎて刺身屋の魚が死んでたとき


最近のソウルは、料理屋は夜9時までの営業という状態で、わたしも最近はほぼ家とオフィスの往復なので外の状況はよくわからないが、直近では感染者数が減ってきていることもあって、外食している人たちもそこそこいるな、という感じだ。カフェはテイクアウトのみ営業可だったのだが、明日からは店内でも飲食できるそう。


政府から言われているのか、自己防衛策なのかはわからないが、美容室ではシャワーを使う時間を減らしているようで、座ったまま、プラモデルの塗装をする機械で頭を高圧洗浄・シャンプーされるという希有な経験をした。


韓国では12月の末から学期休み中であり、ワクワクドキドキの新入教員一学期目を終えて少しのんびりしている。



先学期の振り返り


学部でも大学院でも優秀な生徒さんに恵まれていて、楽しくはじめの一学期を過ごすことが出来たし、色々と学ばせてもらった。


オフィスメイトはM氏というエジプト人なのだが、愉快な人である。


M氏は先日、超カタコトの韓国語でインド料理屋に「チキンマサラカレー」の宅配を注文したところ、「野菜マサラカレー」が届いて憤慨していた。わたしもM氏が電話注文するのを聞いていたので、住所が聞き取れなくて届かないのではないかと懸念していたが、チキンと野菜が間違えられたのにはびっくりした。


なぜオフィスメイトがいるのかというと、他の大学ではどうか知らないが、わたしの現在いる大学では外国人と韓国人教員は待遇が基本的に異なっていて、外国人教員はオフィス共用という決まりらしい。キャンパスが狭くて部屋が足りていないので、M氏は着任当初オフィスがなかったそうである。



狭めのキャンパス。隣にある大学の「裏庭」とバカにされているとかいないとか

前の学期は学部で一つ、大学院で一つの授業を教えさせてもらった。正式にはもう一つ授業があるのだが、これはアメリカの大学院でいうダイレクテッド・リーディングのような形に近いので負担は少ない。


また、わたしは外国人採用なので事務や雑務関係の仕事は免除されていて、授業と研究だけしていればよい。アメリカの大学ではもっと授業負担が少ない新任教員も結構いるだろうし、ポスドクならずっと研究だけできるのであるが、正直、研究させてもらえるだけでもありがたい。


仕事探し中、面接で「このポジションでは研究時間は無い」と断言されたこともあったし、履修生徒数が800人でTAが15人いる授業を担当してほしいといわれて度肝を抜かれたこともあった。今のポジションは研究に使える時間という意味では恵まれていると感じるし、多少なりとも成果を上げたいところ。

キャンパス内にある教員住宅に住んでいるが、一階に食堂があって(教授食堂という名前だが誰でも食べられる)、一食約500円ほどでメイン+汁もの+おかずのご飯が昼と夜食べられる(2021年になったらしれっと50円ほど値上げしていた)。学生街なのでまわりにも安い店も多いし、大学院・ポスドクのアメリカ時代に比べると生活の質は高いと思う。



こういうのを食べてます

日本社会入門の日本語教科書があれば良いのに


学部の授業は基本的に日本語で開講することになっていて、先学期は現代日本における様々な社会問題を網羅的に概観する授業を担当した。一学期間、試行錯誤してみて思ったのが、「日本語で書かれた日本社会入門の教科書が欲しい!」ということである。


日本以外の国で、日本語の読解力が高い人たちが日本社会入門を学ぶ、というシチュエーションが相当希有ではあるが、ほどよい教科書がないことには少し参った。


英語だと、日本社会の様々な側面を概説的に扱った入門の教科書はいくつかある。くわえて、論文や新聞記事も必ずしも日本についてよく知らない人でもわかるように書かれているので、実は教材は結構豊富である。


日本語でも良い新書はたくさんあるし、韓国の日本語専攻の大学生の語学レベルは相当高いのでそんなに困らないだろうとタカをくくっていたのだが、新書レベルの本でも、実際に使ってみると、わたしが思っていたよりも内容が難しいようだ。


一概には言えないが、これは言語能力の問題ではない気がする。というのも、授業内で読んだ、小熊英二先生の『日本社会のしくみ:雇用・教育・福祉の歴史社会学』やメアリー・ブリントン先生の『失われた場を探して: ロストジェネレーションの社会学』は、わかりやすいと生徒さんに好評であった。


これらの本は、平易な言葉で書かれているとはいっても、社会学のコンセプトもはいってくるし、専門的な話もあるし、日本語ノンネィティブの読者にとって簡単な内容とは言えないと思う。しかし、基礎的な説明と、読んでいて面白いエピソード、歴史や制度に関する説明などがほどよいバランスで混ざっている点が良いのではないかと思う。


日本語の新書などはそもそも日本語ネィティブで日本に住んでいる人が読むことを前提にしているので、前提的な基礎知識の説明などが短かったり省略されている一方で、歴史や制度などの記述が些細なため、基礎知識が無い状態では、日本語の意味は理解できても内容がイマイチわからない部分が結構あるという、当たり前といえば当たり前の気づきを得た。


また、日本の新聞記事は事実だけが簡潔に書かれた非常に短いものが多くて授業内のリーディングで使えそうなものが意外と少ないというのも発見だった。


一方で、韓国の学生さんは日本について詳しいので、あまりにも基礎的な事が書いてあるだけでは勉強にならないというジレンマもある。


これはわたしが適切な本を選んでいない/知らないという単なる不勉強の問題かもしれない。日本語ネィティブ読者にもある程度の需要はあるのではないかという気がするし、誰か日本社会入門リーダーを日本語でつくってくれたら良いのにな~と思うのであった。


そういえば、先学期は、日本の新聞社で記者として働くKさんとアメリカの大学院で人類学の博論執筆中のHさんが日本のマイノリティに関してゲストレクチャーを行ってくださり、これは生徒さんたちに非常に好評であった。わたし自身も、「自分と同世代のみんなは普段こういうことやってるんだ〜」と単純におもしろかった。

こうして専門分野に関して話してもらえるのは、大変ありがたい。もし、ゲストレクチャーしてもいいよ、興味あるよという方いらっしゃったらご一報ください〜。



スーパーは便利だが高い気がする。たまに市場に買いだしに行く

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