コロナに翻弄された一週間

1週間前は、対岸の火事だった。

日本でマスクやトイレットペーパーの買い占め騒動が起こっているのを、「大変そうだな…」と見ていた。

それがいまや、アメリカの方が大騒ぎである。

3月は、4週連続プレゼンテーション行脚の予定だったのだが、そのうちの後半ふたつ、昨日やるはずだったハーバードでのトークと、来週のAssociation For Asian Studies(AAS)はキャンセルに。明日から行く予定だったミシガンへの旅行もなくなってしまい、いきなりヒマになってしまった。

先週の時点では、ここまで大事ではなかったのだが、ケンブリッジでも集団感染が出たりして、土日の間に世間の様子が急変。

月曜にはAASが中止を発表。

火曜日には、大学が全クラスをオンラインに移行すること、学部生を寮から追い出すこと、25人以上参加の集会の禁止などをアナウンスして、そこからはあっという間に今のような状況(イベントは基本全て中止、キャンパスの施設はほとんど閉鎖で在宅勤務、ラボでの研究活動も大幅に縮小)になった。

トランプがヨーロッパからの移動制限や国家非常事態宣言を発表したり、金融市場が大暴落するのを見ていたりと、目まぐるしい一週間だった。

街中でも、ハンドサニタイザーや消毒液が手に入らないと言っていたのが、パスタや冷凍食品、トイレットペーパーが買い占められるようになり、昨日、スーパーのターゲットとアジア食品スーパーのHマートに行ったら長蛇の列で、ありとあらゆるものを買い占めていた。

浮き足だった雰囲気に押され、わたしもなぜかキムチを多めに買ってしまった。


消毒液

この間までトイレットペーパーなんかいっぱいあったのに

こと大学にいると、こういう行動をモラルパニックだと冷ややかな目で見てしまいがちだが、高齢者や子どもと一緒に住んでいる人が感じている恐怖感は相当なものだろう。

オフィスにも行けないし、クライミングジムは入場制限をしていて、他の人の半径6フィート以内に近づいてはいけないとかいうし、家にいるほかない。

こういう非常時には、もともと不利な立場にいる人はいちばん割を食うな、と、当たり前のことなのだが、しみじみと思う。

ハーバードでも、急に寮を追い出された、もともと経済的に豊かでない家庭出身の学生が路頭に迷ったり、留学生が行き場を失ったり、ということが問題になっている。

われわれ外国人は、国籍によって移動を制限されることもあるし、アジア人に対する偏見もいろいろなところで発露されているようである。

オフィスメイトのイギリス人、L君は来週イギリスに帰ると昨日話していたのだが、今日になってイギリスもアメリカヘの入国制限の対象国になってしまった。

ドイツから友達がウチに遊びに来ているのだが、ドイツに戻ったほうが良いのか、このままウチにいたほうが良いのか…という話をしていたら、連絡もなく帰りのフライトが欠航になっていたそう。

在宅勤務といっても、良い家に住んでいる人たちはなにも苦にならないかもしれないが、わたしのようにルームシェアしてる人間は家で集団感染する恐れもあるし、そもそも家が寒い。

勝手に暖房の温度をあげると、いつの間にか大家さんが低くしているのである。

大学の先生とか、もともとオフィスワークのそれなりに快適な仕事をしている人たちは、家から働けるからいいかもしれないが、そもそもサービス業や野外でする仕事など、在宅勤務なんて不可能な職種の人は、みんなが外に出たくない中でも働かなければならない。

大学は一ヶ月くらいお休みにしても、すぐに社会が崩壊するようなことにはならないが、例えばゴミ収集とか、社会インフラの多くは在宅勤務出来ない人たちの労働に支えられている。

加えて、アメリカには無保険の人が多くて、ここ数年、その数は増えている。今年は大学が年100万円以上するちゃんとした保険にいれてくれているのでそれほど心配していないが、これが大学院生の時だったら、コロナにかかっても、入院するお金すらなかっただろうな、と怖くなった。

最悪の場合、今後、夏まで家に閉じ込められるのだろうか。

その場合、大家さんはいつ暖房の温度を上げてくれるのだろうか。家が暖かくなる前に外のほうが暖かくなる可能性すらある。

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