カムリちゃんとの出会い(偏見が交錯する車選び)

先週、1年間のフィールドワークからハワイに戻ってきた。そして人生初の車を買った。


カムリちゃん

以前は、モペットと呼ばれている原チャリに乗っていた。モペットは車と違ってどこでもとめられるし、家の前に置いておける。ガソリン代も満タンで3ドルくらいと、非常に便利かつ安価である。

泣く泣くお別れした非常に有能なモペットちゃん 

しかし、サーフィンからの帰り道、暗くなってから片道3車線のワイアラエ通りや、5車線のサウスキング通りなどを原付で走っていると、いつか轢かれてペシャンコになるんじゃないかと思っていた。

ハワイ最後の一年、サーフィンに安全に行くために、一念発起してとりあえず半年から一年くらいもちそうな激安車を買うことにした。

偏見が交錯する車選び 

Craigslistというサイトでの個人売買が主流なので、当然それで探す。しかし、普段6.5ドルのサンドイッチと6.75ドルのサンドイッチのどちらを食べるか真剣に悩んでいるくらいの貧乏人なので、車なんて買ったことがない。とりあえず同じ寮のG君にアドバイスを仰ぐ。走行距離が少ない車を探して、VINという車体番号を聞き出し、Carfaxというその車のオーナーシップや整備の記録をインターネットで入手するようにとの助言を受けた(一通40ドルほど)。

こういうレポートが買える

中古車の値段は高く、走行距離20万キロ、25万キロ超えは普通である。

まず見つけたのは、カポレイという郊外で売りに出ていた1,300ドルと格安の2005年製Kiaのミニバン。僕はいいと思ったのだが、まわりの人が「Kiaかー…」みたいな感じだったので断念(偏見だが、僕の偏見ではない) 。

写真は実際のモノでなくコピーライトフリーのものを流用 

次に見つけたのは、2008年のフォード・フォーカス。走行距離は25万キロと結構いってるが、比較的新しいし、見た目はきれいだ。オーナーにテキストしてみる



こういう投稿には(カポレイ)とか(ワイキキ)とか売りに出ている地名が書いてある。この車は我が(マノア)であった。近いから見に行きやすいというのもあるが、 マノアは土地が高くて、白人とアジア人の年寄り勢が多いという印象の場所で、車もちゃんと手入れしてありそう、という偏見が発動した。

しかし、連絡をとってみると車があるのは○○○だそうである。「嘘つきじゃねーか!」となった。

こういう考えがよくないのだが(なので地名は出さないことにする)、○○○は 、ホノルルの中では治安がよくないと考えられていて、「夜は行っちゃダメ!」とハワイの人からは言われるような場所である。たしかに夕方以降は結構怖い感じがするので、夜でも歩いて買い物に行けるマノアとは雰囲気が異なる。

「マノア=車の手入れしてそう」、「○○○=車の手入れしてなさそう」という自分の偏見に幻滅。当然、このような偏見に根拠がないことは知っているのだが、間違えられない買い物と思えば思うほど、偏見スイッチが作動してしまう。

オーナーはおじさん。G君が「値切ってみれば」というので、聞いてみたらすぐに200ドルも負けてくれた。ありがたいが、送ってくるテキストが高校生みたいな感じで「Alight man. The car is super good man. No worries man! 」と、マンマンいってくるのでどうも信用できない(また偏見炸裂)。

結局、このおじさんとは、最後に電話したときの、「いま緊急事態なんだ…。また…連絡する…ツーツーツー」という会話を最後に音信不通になってしまった。無事だといいけど。

次に見つけたのは、軍人が所有する古いクライスラーのミニバン。古い車だが走行距離が少なく、きちんと手入れされていそうだ。ここでも、「軍人=メカニックに強い=手入れしている」という偏見が作動した。この車の20年の歴史のうち、このひとが関わっていたのは3ヶ月ほどであるにもかかわらず。

 

持ち主いわく、前の持ち主だったおばあさんは 「Scatter Brained(注意散漫みたいな感じか)」だそうで、クライスラーを売ったのに、間違えて自分のプリウスの所有権をこの人に譲渡してしまい、この人は最近まで見たこともないプリウスのオーナーとして、自分は所有権のないクライスラーを運転していたらしい。ほんとにお前ら…。 おばあさんのクライスラーはタイミング悪く他の人が買ってしまった。

カムリちゃん

当てがなくなってしまい困った。連絡が取れても買えるとは限らないので、予算内の車の持ち主に片っ端から連絡。1500ドルで売りに出ていた20年前のカムリのオーナー、AJさんから連絡が来た。この人は、古いカムリを買って安く売るのを生業にしているそうだ(アメリカではなぜか昔のトヨタへの信頼が絶大なので古くても売れる)。世の中いろんな仕事がある。

残念ながら、そのカムリは売れてしまったそうだが、同じ年式で走行距離が11万キロ(これでも相当少ない!)のカムリを1600ドルにまけてくれるというので、見せてもらう。

ペイントはボロボロだが、外見なんかどうでもいい。車内はきれいで、エンジンも問題ないしエアコンも効くし、G君も一緒にテストドライブに来てくれて大丈夫な車だというのでこれを買うことにした。

カムリちゃん。色がダサいと思ったが、昭和の中小企業の経営者の車みたいで慣れてくるとむしろダサかっこいい。車に乗る時のためにセカンドバッグを買うことを前向きに検討中。

人生初の愛車である。

買ったはいいけど…

そこからが大変である。車のオーナーシップを移すには、所有権証明書と登録書、セーフティチェックが必要だが、翌朝目が覚めたときにふと「あれ、そういえばおっさん、登録書は自分のだと言って持って帰ったな…」と思った。

確認しに駐車場に降りていくと、早速駐禁を切られていた(これは異議申し立てをして、支払免除になった)。よくよく見てみるとAJが持っている登録証以外の書類は、昔のナンバープレートの番号のままである。これじゃさすがに登録できないだろ…。青くなってAJに電話、朝から「登録証が欲しい」、「いやこれは俺のだ。俺は21年ここに住んでるんだから信用しろ」、「それはどうでもいいから早くその紙持ってきて」と電話ごしに一悶着。G君にもまたお世話になってしまった。

結局、登録証をくれたのだが、連休明けの火曜日に登録にいったら、書類の、僕がサインするべき場所にAJが間違えてサインしてあるので無効だと言われる。またAJを呼ぶ。AJはいい人で、呼べばすぐ来てくれるので助かったが、変なやつだったら、乗るに乗れない鉄の塊だけ残されて一大事である。幸運であった。

ここまで大変だったが、これもすべて安心してサーフィンに行くためである。ペシャンコになる心配から後ろ髪ひかれつつ日が暮れる前に帰らなくてもいいことが目的である。

ついに今日、念願のサーフィンに行く時間ができた。いそいそとオフィスを抜け出し(と、いっても先生も学生も金曜日は学校に来ないので誰もいなかった)、駐車場から車を出してわざわざボード用のワックスを買いに行き、さぁ家の前でボードを積み込むぞ。

と思ったら、サーフボードがどうやっても入らない。あとほんの少しなのだが、どうやっても入らない。後部座席をすべて取り外さないと車内には入らない。あぁ、入らない。30分の試行錯誤の末、物理的な限界は努力では超えられないことを悟った。なんのために存在するのかこの車は。涙が…。

「キャリアーを買わないと」と落ち込んでたら、通りかかったB君(ボディボードやっている)に、「いや、ボディボードに転向すればいい」とわれてムキー。ちゃんちゃん。

こうなるはずだったのだが…。

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