生存報告:魔のエレベーター、京都、つげ義春的宿の話など

1年間のフィールドワークもいよいよ佳境。ブログどころではなくなってしまっていた。生存報告でお茶を濁す。 

魔のエレベーター

遡ること数ヶ月、ある運送屋のバックヤードに、インタビューに協力してくれそうな若者を探しにいったら、「で、お前来週何曜日から出勤するんだ?」と無茶ぶりをされ、働くことになった。

仕事はおもに荷物の仕分けと運搬。この職場には荷物運搬用に3つのエレベーターがあるが、そのうちの一つ「魔のエレベーター」に吸い込まれた人はなぜかエレベーターから出てこなくなる、そして失踪してしまう。



先日、ここのエレベーターに住んでいると言われていた、おそらく60代男性のAさんが、非常にささいなことから上司と怒鳴り合いの喧嘩となってしまい、いきなり辞めた。ナイスなキャラだったので残念である。

Aさんのポジションに入ったのは遅刻常習犯のBさん。しかし、それもつかの間、Bさんは電話越しに上司に遅刻を注意され逆上、そのまま失踪してしまった。最近はわたしが魔のエレベーター担当になることも多く、非常に疲れる。

若者を探しに来たはずなのだが、なぜか人手不足と高齢化の蟻地獄にはまった。それに加えて最近の酷暑である。失踪してしまいたい。次の「魔のエレベーター」の餌食は自分か。

これだけ暑いなか半屋外作業なのに、熱中症対策が労働組合から送られてきた塩飴だけというのもお粗末な話である。

京都

福岡や京都にも行ってきた。福岡はハワイ大学のワークショップだったので、集合時間にこない、質疑応答でも身内ギャグを連発、せっかく福岡まで来たのに全員ガストで食事、会議中に前日の打ち上げで残ったつまみを食う、酒を飲み始めるなど、ハワイ大学ゆるゆるイズムが炸裂。

京都では、SASEという会議があった。市場や経済的行動をメインストリーム経済学だけでなく、いろいろな学問分野から研究している人たちの集まりといった感じか。アメリカの社会学だと、経済/文化社会学の理論強者たちがここのジャーナルに出したりしている印象で、恐れ多くて近寄れないと思っていたのだが、はじめてアジアでの開催だというし、片隅のほうでひっそりと発表して、雰囲気を味わってくる所存であった。



しかし、直前になってプログラムを見てみたら、経済社会学では著名なニナ・バンドーさんというUCアーバインの先生と、業界の超大御所の一人のマーク・グラノヴェッターの生徒で、今は中国の起業家と市場の創成にかんする博士論文を書いているスタンフォードの院生というガチガチの経済社会学者たちのパネルに自分の名前が…ぼく経済社会学じゃない…(涙)。

ボッコボコにされるんじゃないかとドキドキしていたが 、みなさんフレンドリーでいいコメントなどももらえて楽しかった。UCLAのChing Kwan Leeさんの、ザンビアに進出した中国系企業の銅鉱山での6年間のフィールドワークをもとにしたThe Spector of Global Chinaというキーノートスピーチが非常に興味深かった。


つげ義春的な宿

京都から帰ってきて1ヶ月間、毎日バイトとリサーチのいろいろをしていて疲れきった。これは一刻も早く現実から逃避する必要があると発作的に考え、先日、とある温泉地の日帰り温泉に行った。電車の中でうたた寝、起きたら田舎の知らない駅にいたというハプニングもあったがなんとか温泉地まで無事到着。

サウナの熱気を大きなうちわでぶつけてくれる「ローリュウ」というやつをやるのが目的だったのだが、暑いというよりもむしろ大火傷の危険を感じるレベルで、小学生たちを前にいさぎよく一目散に退散。

その後、その温泉地の駅前の居酒屋で飲んでいたところ、家に帰るのが非常に面倒になってきた。今東京に帰れば、明日は普通に作業できてしまう。まだ現実逃避が足りないと直感した。

すると、いかにもヤバそうな雰囲気を醸し出す宿が目の前に。電話をかけるとおじいさんが出る。部屋は空いているらしく、観光地でありながら激安。早速宿にお邪魔する。

長い長い階段を上がった先には、手作り感しかない独特な見た目の宿。

ほかに誰も泊まっている雰囲気がなく、エアコンなしで異様な熱気と湿気とカビの匂いが充満。「今部屋準備してるからねー」と言う店主の横で、半裸のおじいさんが布団を運んでいたあたりにイルなバイブスを感じる。部屋も廊下も、わが人生で一番とされていた於インド・アウランガーバードの安宿を凌ぐ「時代から取り残された感」。つげ義春氏がここにいたら泣いて喜んだと推測される。



トリップアドバイザーには、「Worst Minshuku Experience」など、海外からの観光客からの酷評に並んで「夏ならいける」という意味深なレビューがあったが、翌朝風呂に入って納得。

「野天風呂」を自称するだけあって、脱衣所も風呂も完全なオープンエアー。脱衣所にはおじいさんが横たわっていてビックリする。早起きして近くの街から来たそうで「こう暑いと一日三度も入らんといかん」とのこと。「夏ならいける」というよりは夏しか入れない。

東京のこんな近くに、それも駅前に秘境宿があるとは。

立ち飲みの世界

今回の日本滞在では、立ち飲みという世界を発見した。よくわからないが、こういう形式の安くて狭い飲み屋がたくさんあるのは日本くらいではなかろうか。中野は立ち飲みだらけだが、京都や福岡にも楽しい立ち飲み屋が結構あって、いろいろ楽しい話を聞けた。

立ち飲み屋に来ている人は、コミュニケーションを求めている人が多く、見ず知らずの人と話せるという面白さがある。日常生活の中で、これほど他人と話しても問題にならない場所は他に思いつかない。なにより、立ち飲みは安い。しかし、激安居酒屋みたいなのと違い、料理が美味しかったり、そもそもみんな話をしたくて来てるので、
僕のような貧乏人から、エリート会社員、地元の大地主みたいな大金持ちまで様々な人がいる。それゆえ、いろいろな話が聞ける。

こういう空間は意外と珍しいと思う。Slim’s Tableみたいな感じで
立ち飲みを長期間参与観察したら、なにかおもしろいことが見つかりそうである(という気がするだけ、確信なし)。

コメント