地域研究・学際系PhD進学はアリ?ナシ?(アメリカに限る)

学際VS.ディシプリン

ここに、アメリカで学位を取得したい人がいたとする。社会学や人類学、またその他の人文科学系の分野では
1)ディシプリンと呼ばれる伝統的な学部(社会学、人類学、政治学などなど)
2)Interdisciplinaryと呼ばれる地域研究・学際系学部(アジア研究、グローバルスタディーズ、エスニック・スタディーズなどなど)
という選択肢がある。

どっちに行くか、というのは実際悩ましいところだと思う。

同時に、地域研究・学際系のリアルなデメリットに関する話もしばしば聞く。とはいっても、僕が知っているのは、アメリカの(日本の学際学部がどうなのかは知らない)主に地域研究と社会学・人類学などのディシプリンの関係を念頭にした一般論にすぎない。


地域・学際系の魅力

学際系の教育レベルが、伝統的な学部のそれに対して劣っているということはない。場所によってはUCSCのHistory of Consciousnessみたいにダナ・ハラウェイ がいたり、アンジェラ・ディヴィスがいたりと豪華なところもあるし、学際的な学部で学ぶのにはそのメリットがある。

たとえば、分野によってはディシプリンのあり方そのものに問題があるという向きもある。僕のセンセのひとりで、グローバリゼーションの割と有名な研究者は、社会学や政治学が、 国民国家という分析単位に固執することを批判して、グローバルスタディーズの重要性を説いている。

また、 一概には言えないが、研究自体が必然的に学際的になるテーマというのはある。たとえば、僕が今やっているテーマだと、労働経済学、人類学、社会学、カルチュラルスタディーズ、文学、などなど様々なアプローチでみんないろいろ書いている。 自分の学部にいろいろなディシプリンの先生がいて、様々な角度から一つのテーマについて学べるというメリットはある。

地域・学際系学部では、テーマや地域ごとに人が集まっているわけで、ある程度の問題関心が共有されている。たとえば、普通のアメリカの社会学部には、アジアに関する知識のある先生や学生は、いたとしても学部に数人くらいだろう。しかし、そもそもアジアに興味のある人しかいないアジア研究学部ではまったく環境が異なる。

そもそも、自分の研究テーマを教えてくれそうな先生がいないと入れてもらえなかったりもするので、アジアのことなどをやっていたら、地域ごとのフィットが考慮される地域研究系などのほうが教えてくれそうな先生が見つかりやすい、ということもあるかもしれない。

就職問題

問題は、アメリカに限った場合、就職の時に不利になる可能性が高いということである。

学際PhDの人がディシプリンの学部に仕事を見つける可能性は、ディシプリン出身者のそれに比べて低い。



それゆえ、学際学部に就職口を探すことになるが、そもそも、学際学部は絶対数がディシプリンの学部よりも少なく、ここでもディシプリン出身者と競合することになる。

あくまで例だが、A大学の社会学部で日本の研究をしている人は、ハワイ大学の社会学部とアジア研究学部の両方から雇われる可能性があるが、おなじA大学のアジア研究学部出身者が社会学部に雇われる可能性はほとんどない、といっても言い過ぎではないと思う。

ぼくの所属学部には、政治学など社会学以外のディシプリン出身の先生はいるが、地域・学際PhDの先生は一人もいないし、過去にもいなかったと思う。

差別としか思えないのだが、地域・学際学部で、社会学の方法論と理論を用いてまったく同じ研究をしていても、社会学のPhDでないと、採用の際にその正統性が疑問視されるという可能性はすごく大きい。

以前もブログで引用した大学院就職コンサルタントのKaren Kelsky さんも、自分自身東アジア研究学部で教えていた経験から「学際系Ph.D.の呪い」という記事を書いている。

最後はケースバイケース

最終的にはケースバイケースである。以前、Karenさんに、「たとえば、ハワイの社会学とNYUのアジア研究はどっちがいいですか?(二つの大学の名声のレベルはかなり異なる)」と聞いたら、「それは本当に難しい質問」と言っていた。

そもそも、アメリカで就職する気が無ければ大した問題ではないかもしれない。日本で、ディシプリンPhDと学際PhDがどのように評価されているはわからないが、結局海外PhDというジャンルだし、アメリカほど大きな格差はないのではないかと想像する(どうなんですかね?)。

自分の居心地の良い環境で生産的に研究に取り組めれば、より良い研究ができるかもしれないし。
Karenさんは、記事の中で、学際PhDだったら出版物でよりアピールしていくしかない、としている。

そうであったとしても、メリット・デメリット両方を知っておいて損はないのではないか、と思う。

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