世界一髪型がおもしろい大統領誕生について

皆さんご存じ、世界にリーダー多しといえども圧倒的に髪型が異様な人がアメリカの次期大統領に選出されました。まだ時間がたっていなくて何がなにやら情報を処理できていないですが、髪スゴ夫の大統領選出についていくつか思ったことです。

信じられない

多くの人に共通の感想ですが(たぶん髪スゴ夫本人もびっくりしただろうね)、とにかく僕も信じられませんでした。民主党のコンベンションでヒラリー・クリントンが、共和党は髪スゴ夫が7月に選ばれて以来、様々な場で選挙は話題にあがったものの、どうせヒラリーになるんだろということであまりまじめに考えてませんでした。髪スゴ夫はありえないけど、哲学者スラブォイ・ジジェクがヒラリーのがトランプより危険だと言っていたように、ヒラリーも自分の財団への寄付やウォール街とのコネクションなどブラックな部分が多すぎるし、弱者の見方というのも口だけとしか思えないし、30年も政治の世界でコロコロと意見を変えてきた人がなぜ大統領になったらいきなり庶民の味方になって様々な変革を起こせるのか疑問だなーと思ってました。本当に困った二人が残ったなー、選挙権なくてよかったー、と。

僕が所属しているイーストウエストセンターで、選挙の一週間前にハワイ大政治科学科の専門家に今回の選挙の争点と予想される展開について解説してもらうという機会がありましたが、いろいろな世論調査やサーベイを統計モデルで解析すると今回はヒラリーが勝つ可能性が少なくとも75%以上ということだったし、前日のニューヨークタイムズの最終分析でもヒラリーが勝つ可能性85%と予想していて、まぁ髪スゴ夫になったらおもしろいかもねー、ありえないけどねーという会話をしたりしてのんびりした感じでした。

ところが!開票日当日、ホノルル国際映画祭でハワイの遺伝子組み換え作物に関する映画を見ていて、終わってでてくると隣でたばこを吸っていた怪しい風貌の男が髪スゴ夫が中西部の州をほとんど獲ったというではありませんか。原チャリで家に帰る途中も、あの男は変な格好してたからでたらめを言っていたに違いない、大丈夫大丈夫と納得しようとしたものの、途中でニューヨークタイムズを見てみるとなんと髪スゴ夫が勝つ確率が65%に!スーパーで買い物しているうちに確率は急上昇していき家に着いたときには85%に。

住んでいるイーストウエストセンターの寮ハレ・マノアの9Fキッチンでいつも通りご飯を食べましたが、怒っている人、黙り込む人、みんな無言でスマートフォンを見ながら選挙の行く末を暗惨たる気持ちで見る夜となりました。翌日、翌々日とハワイ大学ではみな信じられない出来事を前にフェースブックや様々なオンラインニュースにかじりつき全然仕事が進まないという状態に。授業でもどうやってこうした現実を理解するかと言うことにほとんどの時間が費やされ、泣き出す人もいたりと我々、大学にいる人たちは途方にくれたのでした。

信じられないを理解する

このようにわれわれが呆然としてしまったのは、予想を裏切られ、理解の範囲を超える「信じられない」ことに直面しなければならなかったから。これがなぜ「信じられない」かというと、一つには、われわれがメディアなどの推計をもとに、ある種の絶対性がある科学的事実として捉えていたヒラリーの優勢が覆されてしまったから。この世論調査をもとにした選挙予測が外れた理由については1)世論調査のデータが実際の人口に対して正確でなかった(特定の年齢や人種、性別の人たちが他のグループよりも何らかの理由で調査に答え(られ)なかった)、2)髪スゴ夫支持を表明すると人種・性差別主義者だとおもわれるので黙っていた人たちが少なからずいた、3)思ってた以上に白人が投票に行き、それ以外の人たちが行かなかった(白人は共和党に、マイノリティーは民主党に投票しがち)などの理由が挙げられます(http://digital.asahi.com/articles/DA3S12659790.html)。

「信じられない」もう一つの理由は、開票日当日、経済学者ポール・クルーグマンが「私を含む多くのニューヨーク・タイムズ読者のようなアメリカ人には自分の住む国のことがもうわからない」と言ったように、アメリカ社会は遅い歩みながら少しずつ文化や人種の多様性にオープンになり、女性差別を減らし、民主主義的に進歩していくのだと考え、他のアメリカ人もそう考えているに違いないと思っていた人々、つまり都市にいる比較的教育程度の高い人たち、は髪スゴ夫の当選によって実はアメリカ人の半分は全然そんな風に考えていなかったという現実を目の当たりとすることになったから。アメリカの半分は(といっても投票した人は少なかったので正確には投票した人たちの約半分)金があれば女性器をわしづかみにしても平気だと豪語する髪スゴ夫に投票していた。

この「信じられない」を理解するにあたって本当に様々なリアクションがあり、どうしたらいいのかわかりませんが、少なくとも二つの事が言えるようにおもいます。一つには、多くの人が指摘するように、例えば、マイケル・ムーアが、この選挙を「驚愕の結果だ」と嘆くのは「自分の世界に閉じこもって、他のアメリカ人や彼らの絶望に目を向けていないだけだ」と言っていたように、田舎や郊外に住み、安定した仕事がなく、大卒でない白人(ヒラリーが Deprorable:みじめな人たちと読んだ人々)の絶望、怒り、不安をもう半分のアメリカ人たちは理解していなかった。僕のまわりにいるようなひとたちはある意味では全然アメリカを理解していなかった(もちろん、髪スゴ夫の投票層は金持ちもミドルクラスもいるので、単純にはいえない)。

友達が言っていて納得しましたが、脱工業化で仕事がなくなった田舎の町の生まれで(ここではウエスト・バージニア州の小さな街とする)、お母さんは自分が小さいときに家を出て行ってしまい、父親は仕事がなくてドラッグやったり酒を飲んでばかり、というような環境で生まれ育って自分も苦労して生きている、一方、ワシントンではオバマやヒラリーがイスラム教徒の権利とかLGBTの権利とか自分には全く理解できないことを擁護している、という状況におかれたらアメリカ人の権利を回復しようとしている(ようにみえる)髪スゴ夫に投票するのはきわめて合理的な行為です。僕の修士論文は日本での似たようなケースについてだったので、ことさらそのように感じます。(以下の本など参照:Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis

一方で、この記事:白人労働者に共感することをもう求めないでにあるように、ここで問題になっているのは、政治的に中立な価値観の対立ではなくて、髪スゴ夫とそれに賛同する人たちの主張の多くは人種差別とか女性差別など、その原理にもとづいて発言したり、行動すること自体が認められない価値に根ざしているということです。そしてそれらの主張は根本的に間違っている。いくら髪スゴ夫が選挙に勝っても嘘は真実には変わらないというポイントは重要です。なので、この記事【現地ルポ】リベラル層の「空気」に、トランプ支持者は沈黙を強いられるのような見方は間違っています。問題なのは、リベラル層の「空気」ではなくて、差別的発言をする自由があるという間違った思い込みです。

つまり、一方では、比較的恵まれた環境にいて大学で研究したりしている我々は、髪スゴ夫に投票した人々の中にある絶望や怒りを理解するための努力をもっとしなければいけない、同時に、どのような動機を持っていても差別主義者を支持することは間違っているということを明確にしなければいけないように、少なくとも現時点では思います。

で?

どうするのか?髪スゴ夫は民主的に選ばれたわけだし、できることはそんなに多くない。ポール・クルーグマンが言っているように沈黙するか抗議するかの二択しかありません。どちらの選択も倫理的には問題がないわけですが、まぁ個人的には、抗議した方がいいように思います、少なくとも納得していない人たちがここにいるぞと示すために。写真はこないだのホノルルでのプロテストから。ホノルルでも1,100人以上がトランプ・ホテル前まで歩きました。





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